こんにちは。宵です。
前回の記事の中で
- 『事実だけをとらえ、記録する』こと
からはじめてみようと話しましたが、
それを踏まえて今回は
- 『観察してつけた記録を活用するために、4つの重要なポイントを知ろう』
というテーマで話をさせていただきます。
なお、今回も引き続き『行動障害のある人へのアプローチ 施設職員ABA支援入門』(著:村本浄司、出版:学苑社)を参考にさせていただきます。
【追記】本からの引用部分に関しては『””+太字』で記載してあります。またあくまでこの記事は『本を読んだ宵という一個人が、仕事を通した上で考えたこと、思ったこと』を書いてます。ご了承ください。そして興味を持った、役に立ちそうだと思った方は購入して読んだ方がいいです。絶対。
【役立つ記録とは?】事実のみをとらえる【想像は別にする】
- 解決したい問題は『具体的に』書いておく(関連P56)
- 定義『何をしたか』
- 頻度『何回したか』
- 強度『どれくらいの強さで』
解決したい問題の記録を取る時は事実だけを具体的に書きます。
『手のひらで頭を叩いた』(定義)、『8回行った』(回数)、『叩いた箇所が赤く腫れた』(強度)というイメージです。
文章にすると
『自身の手のひらで頭を8回叩く。叩いた箇所は赤く腫れた』となります。
そこに『怒りながら行っていた』や『帰宅日ではないと知り気持ちが落ちていた』等の情報はいりません。『怒っていた』『気持ちが落ちていた』は支援者側の想像だからです。
行動中の表情が険しかった、本人から聞かれたので『今日は帰る日じゃないです』と答えた、そういう事実があったとすると、それらをまとめて考えてしまいがちになります。『自分だったらこうだろう』という経験が邪魔をするのです。
ですが事実と推測は混ぜてはいけません。記録する必要があると思った時は、それぞれ別に残しましょう。
ただし『定義』と『行動』に比べ『強度』は測り辛いです。そのため『扉が歪むほどの強さ』『屋外に聞こえるほどの大きな声』と言った記述になることもあります。
【実は問題じゃなかった】利用者はメリットを得てる、と考える
- 支援員にとって『問題』でも、利用者にとっては『メリット』かもしれない、という視点を持つ
『自分の手のひらで、赤く腫れるほど頭を叩く』という行為を、したことがあるでしょうか。多くの人は無いと思います。私もありません。
何のプラスにもならないどころか『痛い』という点で明確にマイナスだからです。
けれども利用者の中には、本当に上記のような行動を取る方がいます。出血を伴う自傷をする方すらいます。
それは、メリットがあるからです。
考えてみれば当たり前のことですね。その行動がプラスになるなら繰り返すし、頻度だって増える。
『やめてください』なんて言われても、やめる理由がわからない。
利用者はそういう状態にあるかも知れません。
支援員はその視点から、なにが『メリット』に成り得るかを知る必要があるわけです。
【4つのポイント】その行動から利用者が得たメリットを見極める
- 『注目』誰かから注目されたい
- 『要求』物が欲しい、どこかに行きたい
- 『逃避・回避』嫌な事から逃げたい、避けたい
- 『感覚』感覚がほしい、不快な感覚を取り除きたい
利用者は上記のどれかを行動から得ている可能性が高いです。
というのも、行動問題(支援員側が解決したいと思っていること)が他者とのコミュニケーションを求める手段であったり、上手くいかなかった末に発生するものだからです。(例外もありますが。)
この4つの内どれにあたるかがわかれば、支援方法も立てやすくなります。一つ一つ知っていきましょう。
『注目』誰かから注目されたい(関連P80)
これは注目が『強化子』となるパターンです。
- 【補足】強化子とは…”『うれしいことが生じる』あるいは『嫌なことから逃げられる、避けられる』物や事象のこと”(P28)。おかしやジュース・支援員や家族の反応を得る事。あるいはわずらわしさ・痛みなどから逃れる事など。なにが強化子になるかは、個人によって大きく異なります。
複数のパターンがあるそうですが、今回は『支援者が知らず知らず強化してしまいやすいもの』という視点で書いていきます。
パターン1”職員の叱責”
『してはいけません』『それは駄目です』『何してるんですか』等の言葉を、ついつい使ってしまうことは無いでしょうか。使ったあと、利用者はどうなりましたか。
行動が無くならないどころか、こちらの反応を窺われたり、笑っていたりしませんでしたか。
支援員が『叱責』と思っていても、利用者にとってはそうじゃないのかもしれません。
さらには経験上、叱責で改善した状況というのは限りなく少ないです。利用者の行動が変わらず、支援員側も嫌な気持ちになる上、感情的になって行き過ぎると『虐待』と思われてしまうことも……。
効果が無いとわかった時点で別の手段を取りましょう(逆に効果があったとしても、多用すると支援員側がその方法に固執しやすいです。その時もやはり虐待と受け取られるリスクがあるので、癖づく前に止めた方が無難だと思います)。
パターン2”【行動問題を起こした時にその行動を制止する】”
本人や他の利用者の身を守るために無理やり行動を止める事。この動きこそが利用者が求めていた注目の形ならば、今後何度でも繰り返すでしょう。行う時は『この動きは今後のためにならないかもしれない』という意識を持ちましょう。それでも止めなければいけない瞬間はあるのが辛いところですが……。
また、そこから『本人の性格に問題があるのか』と考えてしまう支援員がいますが、そうではないです。これは体感的な話となりますが、適切な対応を続ければ別のことで満たされる利用者の方が多いです。
気持ちを切り替え、次に備えて行くしかないと思います。
『要求』物が欲しい、どこかに行きたい(P82)
これは要求が満たされたことで行動が強化されるパターンです。皆さんも想像しやすいのではないでしょうか。
本には”『具体的な物を得ることで行動が強化されること』”あるいは”『やりたい活動が出来たり、行きたい場所に行けることによって行動問題が強化されること』”とあります。
『利用者が行動する』→『支援員が対応に困る』→『行動を終わらせる目的で物をあげる(または行きたい場所に連れて行く)』→『利用者が、次も同じようにすれば同じ成果が得られると学習する』というステップ。
ここでひとつ現場側の課題なのですが、こんな意識を支援員側が持っている場合があります。
『欲しいならあげれば良い』『行きたいなら連れて行けばいい』という考え方ですね。
この考え方の問題は、『叶えてあげられる物なら、そもそも行動(問題)起こす前にやろう』という点につきます。叶える事自体は悪い事じゃないので、問題自体とは切り離して考えていきましょう。
『逃避・回避』嫌な事から逃げたい、避けたい(P84)
本には”嫌なことを経験している状態から逃げることを「逃避」の機能と言い、嫌なことを経験する前に避けることを「回避」の機能と言います。”とあります。
これもまた、想像しやすい理由なのではないでしょうか。
ただし、問題がこれらを理由としていると判断するためには、利用者の個人的な特性を把握していなければなりません。
その人にとって、嫌な状態とは何をさすのか?『過ごす場の騒がしさ』『人の多さ』『苦手な人との関わり』『職員からの過度な指示』『過剰な作業量』等々。
自分の状態を自分自身で説明できないことが多いのも、知的障がいの方の特性です。
支援員側がしっかり観察し、本人にとって好きな場面・嫌いな場面を見極めることが大切です。
『感覚』感覚がほしい、不快な感覚を取り除きたい(P86)
最後に説明する『感覚』に関してが、一番想像しづらいかと思います。
これに関しては本人にしかわからない『感覚』から生じているので、前兆無くいきなり行動が始まるように見えるかもしれません。
”具体的には『自らの感覚を得るために行う行動問題』と『(不快な)感覚を取り除くことを目的で行う行動問題』に分けることが出来る”そうですが、今回は後者のみ話します。
”『(不快な)感覚を取り除くことを目的で行う行動問題』”とはつまり、『頭痛が不快だから自分の頭を叩く』とか『脚が痛いのでその付近を叩いて痛みや違和感を無くそうとした』といった行動のことです。
ではなぜ、痛みから逃れるために自分を叩くのか。
それは痛みや違和感の理由を理解することが難しいからです。これは障がい特性であることが多いので、『その人は、そういう方である』という風に受け止めています。
自身の身体の不調をうまく訴えられない。
『足が痛ければ整形外科へ、頭が痛ければ内科に行って診察や治療を受ければいい。あるいは痛み止めを飲めば一時的に不快が改善されるだろう。』
と言った意見は私たちにとっては当たり前のことでも、利用者にとっては理解しがたい事となります。
改善のためには支援者側が『そういう事例が存在する』と認識し、自傷行為と身体の不調が繋がっているケースなのかどうかを見極めなければなりません。
普段の仕事の中で自傷行為を見かけた時、『もしかして、どこか身体が悪いのかも』と意識出来ると良いと思います。
今回のまとめ
- 記録は事実だけを具体的に書き、推測は含めない。
- 利用者が得ている『メリット』を考える
- 『メリット』は主に4つに分けられる(4つのポイント)
ここまでで、『問題』から利用者が得ているだろう『メリット』に関して説明してきました。
ではその次。『問題』とされる行動を、どう無くしていけばいいのか(あるいは減らしていけばいいのか)という話を、次の記事以降で説明していきたいと思います。
余談……知的障がい者の支援というのは、本来行動障がいに関するものばかりじゃないです。でもこれが現場の大きな課題ですし、そもそも状況がマイナスの人をまずはゼロに戻さなきゃ、プラスの支援なんて絶対出来ないわけでして。現状、行動障がいについてを学ぶことが一番手っ取り早く本人も支援員も楽になる近道ですし、本当言うなら在宅でお子さんを見ている方々にこそ知ってもらいたい知識でもあります。『頼れる施設、頼れる支援員』が増えることで、助かる利用者と家族も増えるといいですね。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
【追記のあとがき】 本来ならば『知的障がい』『行動障がい』ではなく『知的障害』『行動障害』と書くべきなのでしょうが、記事内は極力前者を使わせていただいています。ただし引用の場合は引用元の表記をそのまま使用します。
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